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広島地方裁判所 昭和42年(わ)535号 判決 1968年5月24日

主文

被告人富岡を懲役八月に、同古岡、同山下、同河内をいずれも懲役六月および罰金三万円に、被告人会社を罰金七万円に処する。

本裁判確定の日から、被告人富岡に対し四年間、同古岡、同山下、同河内に対し各三年間、それぞれ右懲役刑の執行を猶予する。

被告人古岡を右猶予の期間中保護観察に付する。

被告人古岡、同山下、同河内において右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

本件公訴事実のうち、被告人会社に対する職業安定法違反の点は無罪。

理由

(罪となべるき事実)

被告人広島荷役株式会社は、広島市字品町一番地(昭和四二年六月(一日ころ)以後は同町一二番地)に本店をおき港湾運送事業を営むもの、被告人山下正儀は、昭和四〇年二月ころから昭和四二年一〇月二八日ころまで被告人会社の代表取締役として会社業務の全般を統括処理していたもの、被告人河内十郎は、被告人会社の常務取締役、被告人古岡栄蔵は、同会社営業部長としてそれぞれ同会社の港湾運送事業等営業部面の業務を担当処理していたものであり、被告人富岡克己は、暴力団共政会中村派幹部と考えられている者であり、人夫頭田中陽治、同武山正夫こと朴順学等を自己の勢力下に置いていたものであるが、

第一、被告人富岡は、法定の除外事由がないのに、昭和四二年五月一日ころから同年八月二四日ころまでの間に、前後五八回(五八日)にわたり、前記広島荷役株式会社において、同会社に対し、別表記載のように一日ごとに前記田中陽治ら五名ないし四一名(延べ人員一〇七五名)の労務者を継続して供給し、これを船内荷役人夫として同会社に使用させ、もつて労働者供給事業を行なつた

第二、被告人山下、同河内、古岡は右会社営業課長郷田守らと共謀のうえ、同年五月一日ころから同年八月二四日ころまでの間、前後五八回(五八日)にわたり、右会社において、労働者供給事業を行なう富岡克己から、前記第一記載のように一日ごとに田中陽治ら五名ないし四一名の労務者の供給をうけ、これを同会社の広島港における木材の船内荷役人夫として使用した

第三、被告人山下、同河内、同古岡は、郷田守らと共謀のうえ、被告人会社の業務に関し、運輸大臣の免許を受けないで、かつ法定の除外事由がないのに、同年五月一日ころから同年八月二二日ころまでの間、前後二〇日間にわたり、山口県岩国市所在岩国港において、五星丸ほか六隻の船内荷役をし、もつて無免許で港湾運送事業をした

ものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

判示各所為のう、被告人富岡にかかる第一の所為は職業安定法四四条前段、六四条四号に、被告人古岡、同山下、河内にかかる第二の所為は同法四四条後段、六四条四号、刑法六〇条に、同じく同人ら第三の所為は同法六〇条、港湾運送事業法四条一項、三四条に該当するので、第一、第二の罪につき所定刑中各被告人に対しいずれも懲役刑を選択することにし、被告人古岡、同山下、同河内の各第二、第三の罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条一項により右各被告人に対し、第二の罪の懲役刑と第三の罪の罰金刑を併科することにし、以上各刑期および金額の範囲内で被告人富岡を懲役八月に、同古岡、同山下、同河内を各懲役六月および罰金三万円に処する。被告人会社の判示第三の罪については港湾運送事業法三六条、三四条(四条一条)を適用して、その罰金額の範囲内において同会社を罰金七万円に処する。

情状により刑法二五条一項を適用し、本裁判確定日から、被告人富岡に対し四年間、同山下、同河内に対し三年間それぞれ右懲役刑の執行を猶予し、被告人古岡に対しては同法二五条二項、二五条の二、一項後段を適用し、本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することにし、かつその期間中同被告人を保護観察に付することとする。

被告人古岡、同山下、同河内において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

被告人会社に対する本件公訴事実のうち職業安定法違反の点は、罪とならないものであるから刑事訴訟法三三六条により、主文において無罪の云渡をする。

(無罪理由)

検察官主張の被告人会社に対する職業安定法違反の公訴事実の要旨は、

「被告人会社の業務について、同会社代表取締役山下正儀、同常務取締役河内十郎、同営業部長古岡栄蔵、同営業課長郷田守らは共謀のうえ、昭和四二年五月一日ころから同年八月二四日ころまでの間、前後五八回(五八日)にわたり、同会社において、労働者供給事業を行う富岡克己から一日ごとに田中陽治ほか三名ないし二五名の労働者の供給を受けた」というものであり、それに対する罰条としては職業安定法六四条四号、四四条、六七条か掲記されている。

しかし、右の六七条は、一、二項いずれにせよ法人の代表者を処罰する(一項は、法人の業務について、その代理人・被用者――代表者は含まれない――に違反行為があつた場合において、過失によりその違反行為を知りえず、ためにこれを防止しえなかつた法人の代表者を、二項は、違反行為を教唆したり、違反行為またはその計画を知りながら故意(不作為的に)または過失によりその是正または防止の手段方法を講じなかつた法人の代表者を、それぞれ処罰する)規定であり、法人自体を処罰する規定ではない。

また六四条四号、四四条の規定も、法人の犯罪能力を一般的に肯定する見解をとらないかぎりは、違反行為を事実上行つた自然人である行為者を処罰するものであると解さざるをえない。そして、法人の犯罪能力を一般的に肯定する見解のとりえないことは刑法上の犯罪を想定すれば充分である。そうすると、右の規定によつて法人自体を処罰することはできないことになる。そして、これを処罰する規定がないかぎりは、行政犯の領域において、法人の犯罪行為能力を認める説をとるか責任帰属能力のみを認める説をとるかにかかわらず、法人自体を処罰することにできないものであるから、いかなる違反行為についても法人自体を処罰する規定を持たない職業安定法のもとにおいては従業者の違反行為を理由に法人自体を処罰することはできないものと云わなければならない。更にまた従業者の違反行為を理由に法人の代表者を処罰する前記六七条の反対解釈としても法人自体を処罰することができないと解さざるをえない。以上のような訳であるから被告人会社に対する前記公訴事実は、これに適用すべき罰則がないことになり、結局罪とならないものであると云わなければならない。

尚、附言するに、右公訴事実を、被告人会社の現代表取締役田仲舎人を起訴したものと解してみても、前記六七条が適用されるのは、違反防止行為等を故意または過失によりしなかつて当該代表者に対してであつて、違反行為終了後選任された現代表者のごときは含まれないから、これまた無罪と云わねばならない。そもそも六七条は、法人の代表者が職業安定法六三条ないし六六条の正犯である場合には適用がないものと文理上解釈せざるをえない規定であり、そしてその場合その代表者は行為者として右六三条ないし六六条を直接適用されるのであるから、本件のごとく、被告人会社の代表者が正犯の中に名を連らねている場合に、六七条の適用を考える余地は原則として存しないもの(共同代表の定めがあれば別)なのである。(笹本忠男)

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